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「お嬢様……今朝は如何されましたか?」

使用人の一人、湖雪付きの旭日が部屋に入るなり声をかけてきた。彼女になって二年経つが、そんな風に言われたのは初めてだった。

余程その雰囲気がいつもと違っていたのだろう。

まだ寝巻きから着替えておらず、頬には朱が上っていて、入って来た旭日はまず睨みつけられたのだ。……怖いです、お嬢様。

「な、んでもないです」

湖雪は眉間に寄った皺を手でどうにかしようと揉み解しながら答えた。

「そうですか? 何かございましたら遠慮なく仰ってくださいね?」

それが、上辺か真か、湖雪に判断はつきかねた。

……瞳に宿る光が、あの鬼に似て真剣だったのだ。

「お嬢様、惣一郎様とお逢いになられたそうですね」

鞄を持ちながら、旭日は続けた。

「ええ、昨日」

旭日は「それはよろしゅうございました」と微笑んだ。……この家で、心に何を思っているにせよ湖雪に微笑むのは旭日だけだ。

湖雪はその微笑みを、大家のおばあさんに重ねていた。年齢的なことを言ったら若い旭日には失礼かもしれないが、穏やかに微笑む雰囲気が似ていた。

しかし、湖雪に制服を渡してきた旭日の目は伏せがちだった。

「湖雪様……」