淡々と、潔さもなく櫻は言った。

湖雪も動揺することもなく、一度瞼を伏せることでその言を容れた。

「殺して、くれますか?」

あなたが、と。

湖雪は静かに問いかけた。驚いたのは櫻の方で、軽く目を見開く。

「お前は……わかって言っているのか?」

その問いかけに湖雪は、こくりと頷く。

「元より。私は死んでも大差ございません。私が死ねば、また妾腹の子が連れてこられるだけです。私が居るのは、その中で一番年長であるから、というだけです。……違う子を、同じような目に遭わせてしまうのは忍びないですが、あなたが私に死ねと言うなら、いつでも」

そっと、自分の胸に手をあてる。

そのための準備なら、とうに出来ている。……名前を呼ばれなくなった、あの日から。

櫻は湖雪を睨め廻すようにみる。

「湖雪……」

櫻は切なげにその名を呼び、湖雪の頬に手を伸ばした。先程、惣一郎の唇が触れた場所だった。

どきんとした。……そこに、触れられたくない。惣一郎のわずかなぬくもりが……

消えてしまいそうで、淋しい……。

「哀しいな。お前は」

野性的な美貌に、翳りが見える。