抑揚に乏しい声をかけられて、少女は反射的に母の後ろに隠れた。
一人は少女を見つめ、もう一人は母から視線を外さない。
逃げないように監視しているようだった。
「旦那様と奥様がお待ちです」
どうぞ、形だけ促す二人の青年に抗う術も、気力も母にはなかった。幼い少女は母のあとをついて行くしかできない。
しんしんと降る雪が、辺りに積り始めていた。
敷地内は旧い木製の家が連なっていた。この塀の中が一つの街のようだが、ここは、戦争を経て高度経済成長というものを遂げている今の日本ではなく、日の本という時代錯誤な表現が合うような雰囲気だ。
庭も広く、手入れの行き届いた植木が雪粒色に染められている。
少し歩くと、一層堂々たる構えの家についた。今度は少女が強く母の手を握った。
しかしさっきまで温かかった母の手は、ただ冷たかった。
家の中に通され、静かな廊下を歩く。
まるで人がいないみたいだった。
五歳の少女の足で随分歩いたと思うほどの距離を歩くと、障子戸の前で青年が膝をついた。
「旦那様。お連れ致しました」
「ああ」と首肯があり、戸が開かれる。
促され、母と一緒に膝をつく。母が頭を下げたので、そうしなければならない気がして少女も慌てて下げる。
「――久しいな」