牙が、見えた。
はっと意識が目覚めた。
湖雪は布団に横たわって眠っていた。否、意識を失っていたのか? 全身がぐったりと疲れに満ちていた。
喉もとに手をあてれば、寒ささえ感じる気温だというのに、ぐっしょりと汗にまみれていた。
その手を額に移動させ、目を隠す。閉じれば何か現実でないものを見そうで、瞼は下せなかった。
「はー……」
深く息を吐き、考える。
あれは、何だ? 夢。だが、いつも視るものではない。予知夢ではない、何か。
怖くはない。それ以上に、愛されている女性を見た。
母や早子など、絶対に感じたことはないだろう、愛情。
神々しい何かが、女性に見せたもの。
湖雪はふと桜を見たくなって布団から出た。
いつもだったら、こんなこと決して思わないだろう。今は、普段ではなかった。
肩がけを羽織り、障子戸の前に膝をつく。
この戸を開ければ桜が見える。今は枯れたように雪に降られているのだろう。
湖雪は、そっと障子戸に手を差し伸ばし、静かに引いた。
桜が、咲いていた。
湖雪は驚きに目を見開く。
「……え」