白無垢を纏った湖雪は、早子に角隠しを乗せられた。

柔らかく微笑む早子は、娘に普段は使わない色味の強い紅を刷(は)かせ、細雪より白い湖雪の頬に指を這わせた。

「湖雪。おめでとう」

湖雪は奥歯を噛みしめて、こくりと肯いた。今言葉を発せば、綺麗に施された化粧が落ちてしまう。それもわかっている早子は、小さく苦笑した。

「深雪も出席させたかったのだけれど……ごめんなさい。居場所はわからなかったわ」

「いいえ。お母さんは、たぶん、もう……」

湖雪の声は少しだけ小さくなった。母は、恐らく……そういう夢を、湖雪は見ている。

「そう……。きっと、深雪も祝福しているわ」

「はい」

そっと微笑みあう母娘。

着着けの手伝いは、礼をして部屋を出た。その直後、扉が開けられ幹人が姿を見せた。

「終わったようだね。湖雪。美しくなったな」

早子の手を借りて、湖雪は化粧椅子から立ち上がった。

「幹人様、ありがとうございます」

「いや。よく頑張ったな。お前はもう、倖せになりなさい」

「……―――、幹人様」

早子が息を呑んだ。幹人からそんな言葉が出てこようとは……晴れの席でも、考えていなかった。

「何だ、早子。湖雪は娘だが、私の姪でもあるんだ。今日くらい、父として伯父として――倖せを願ってもいいだろう」

当主の顔ではない、父として、伯父として――

「幸せになりなさい。二人で。湖雪」

「………はい……」

湖雪は涙を必死に我慢して、震える声で答えた。

「それから湖雪。場違いは承知だが、私からの結婚祝いだ」