「………」
櫻はその問いには黙ったあと、ふむと息を吐いた。
「まあ、ないこともないが――だからお前から言いだすのを待っていたんだよ」
櫻はぽんと悟の頭を叩いた。
「俺は、人に非(あら)ず。故に、この姿もなきものよ」
ツカツカと熱い抱擁を交わす恋人の許へ歩み寄ると、惣一郎がふっと櫻を見た。その頬は涙に泣きぬれており、櫻を見た瞬間潤んだ瞳が揺れた。湖雪を掻き抱く腕に力がこもる。
「さて、惣一郎――お前は生きるか死ぬかを問われたら、なんと答える?」
惣一郎を見下ろし、櫻は問う。惣一郎は一度瞬くと、次の瞬間には強い瞳で答えた。
「湖雪と一緒に生きる」
生きるならば、湖雪とともに。死ぬ道はない。湖雪を生かしたいと願うならば、自分が生きるしかないのだ。
「納得。お前は合格だ」
櫻はふっと口の端を持ち上げると、惣一郎の胸ぐらを摑んだ。
「俺がお前を生かしてやろう」
櫻は右手で惣一郎の服を摑み、左手で惣一郎の額を摑んだ。
「ははは――俺がこいつを使うのは初めてだからな――心配はするな失敗はない。開闢の瞬間(とき)から生まれた俺が失敗するわけねえんだよ―――」
「櫻――何を」
「湖雪。幸せになれよ。お前が憶えていなくても」
「櫻殿……?」
「惣一郎、俺に負けるなよ。遺す言葉はそれだけだ」
にやっと――櫻の口に鋭利な八重歯が見えた。
閃光が――部屋を包んだ。