「櫻殿……それは、どういう」
「俺の探していた《ゆき》は、湖雪の母だったんだ」
櫻の言葉に、惣一朗は苦しい顔をあげる。
…………え? 湖雪の母というのは……先代の隠し子。幹人の妹。
「俺は深雪を見つけていたんだ。深雪が、自分は娘の倖せを見届けることが出来ないと言うので、俺は湖雪のためにまた自分を解離させたんだ。湖雪の父親は、俺だ」
「………櫻殿……」
「だからよお、惣一郎」
櫻は惣一郎の胸ぐらを摑みあげた。
「お前は生きろ」
「っ、………だから、俺は――」
「言い逃げはずるいだろう? お前だけが湖雪に生きろといい、お前は勝手に死ぬのか? ふざけるなよくそ餓鬼。生きろと言うなら、お前も生きて見せろ。諦めることなく最期まで。それこそ死ぬ気で生きてみろ。いや、俺が生かしてやる。生きたいとしか思わせなくしてやる」
「生きたいさ!」
惣一郎は櫻に向かって声を荒げていた。切迫する命の期限。それが如実にわかる体の苦痛。だが、今湖雪に残してしまった傷はそんなものではないと自分の心を痛める。
「湖雪とずっと一緒に……いたいに決まっているだろう……! でも、俺はもう駄目なんだよ……。もう……」
「生きたいか?」
櫻は睨みつけるように問うてきた。その眼差しに、惣一朗はなぜか晴れた気分になっていた。鬼にあまりにもくもりがなかっただろうか。
「……ああ……生きたい」
惣一郎の顔からは雑念が抜け、すっきりとした表情になっていた。
「――その言葉を待っていた」