「俺は、湖雪以外と結婚なんてしない。俺の妻になるのは、湖雪だけだ」

「……本当ですか?」

「ああ。本当だ」

柔らかい髪を撫で梳く。カタカタと震える愛しい恋人。……何があっても離さないと決めていたのに……俺は。

「俺が結婚するのは、お前だけだよ。……湖雪、愛している」

掻き抱く。この腕から溶けて行くな。

「ここは、お前の場所だ」

ここは、この腕の中は。

「お前しか、入れない」

「……あ」

「……ん?」

「あ……赤ちゃんは、抱いてはくれないのですか……?」

「………っ」

赤ちゃん。湖雪が生む、俺の子……。

この腕に抱くことは――ない。

「………」

惣一郎には答えられなかった。

沈黙は肯定だというのに。

「惣一郎様……?」

湖雪は顔をあげ、惣一郎の冷えた頬に手を這わせた。

「どうして……泣いておいでですか……?」