「湖雪、少しいいか?」
障子戸を開けると、湖雪は円窓から桜の古木を眺めていた。惣一郎が部屋に入って、やっと振り返った。
「あ……惣一郎様」
慌てて向きを変えようとしたが、一瞬表情が固まり俯いた。
「湖雪……隣に座ってもいいか?」
「は……はい」
湖雪はおずおずと小さくなっていく。
その湖雪の隣に座る。包むように腕に収めたかったが、今はそれを出来る立場にない。
「悟は、俺の腹違いの兄なんだ」
ぽつり、呟く。
「はい……何となくですが、そんな感じはしていました」
「生まれたのは悟が六日早くて、嫡子継承性のうちは、悟が跡目に決まっていた」
「……はい」
「悟の母はいわゆる妾というやつでな……。当主の子ならば総てに権利のある虹琳寺ならではだが……」
「惣一郎様は」
俯いたまま、湖雪が声をはさんでいた。惣一郎が隣の小さな女の子を見下ろす。
「虹琳寺に戻られてしまうのですか……?」
ふっと顔をあげた湖雪の瞳は紅く、泣き腫らしたあとが見えた。その様子がとても愛しい……。
「行かないよ」
ぎゅうっと小さな婚約者を抱きこむ。