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「悟、どういうつもりだ、お前……」

客間に残った惣一郎は、悟に詰め寄った。何故兄がここにいるのだ。そして、この兄は幹人に何を言ったのだ?

「……どういうつもりも……お前を虹琳寺に戻すために来たんだよ」

悟は困ったように眉を八の字にした。

「何で今頃そんな話になっているんだ?」

「……昔からその話はあったじゃないか。今になってやはりお前を、という声があがっただけだよ」

「……あの人の策略か」

「惣」

苦虫を噛み潰した顔の弟を、悟はたしなめた。

「お前の実の母君だ。そんな風に言っては駄目だ」

「……すまない」

真剣な顔で言われ、惣一郎は謝った。そうだ。悟の母は――……

「惣一郎、湖雪様のところに行って差し上げないのか?」

悟は心配ごとを口にした。結婚相手は家が決められる身ゆえ、女性に対し興味を示さなかった弟が、あそこまで食い下がった女性。白い頬は雪より儚く空に還っていきそうだった。……相当の心労をかけさせてしまっただろう……。

「………湖雪に今逢っても、どうにも出来ない」