惣一郎と悟は……恐らく、腹違いの兄弟だ。惣一郎と正式に婚約した湖雪は、それまで全く興味を示さなかった家のことを勉強し始めた。もちろん、それまでにも後継ぎとしての知識は教えられていたが、他家は分家でしかなく、跡継ぎが気にすべきはその存在だけだった。
惣一郎の出身家、虹琳寺は分家だが夏桜院の血も濃く、互いに婿嫁の行き来は多い。湖雪の婿に、惣一郎が選ばれても不思議はなかった。
そして虹琳寺は男児であれば嫡子継承性。その際、正妻腹、妾腹は問われない。敬人は、妻のきょうだいに男がいなかったため、婿養子となり跡を継いだ。惣一郎は正妻の子であるが跡継ぎになれなかったと、旭日は言った。ならば、妾腹だが総領(そうりょう)息子の悟が跡継ぎに――。
なるはずだったのだろう。敬人が惣一郎を虹琳寺に戻すなど、気まぐれを起こさなければ。
惣一郎が生家に戻る。それはそのまま当主になることを示す。しかし、湖雪は夏桜院の跡取りだ。嫡子ではないが、正しく先代の血を継いだ夏桜院の娘。虹琳寺についていくことなど出来ない。
それらが示す――つまり、それは。
「……惣一郎様と……お別れしなければならないのですか……?」
婚約の、破棄。
「湖雪」
惣一郎は湖雪の手を握った。
湖雪の頬はだんだん蒼白くなっていく。もともと淡雪のように儚い子だ。今抱きしめないと、陽に照らされて溶けてしまいそうだった。
惣一郎は奥歯を噛みしめた。
「幹人様」
「うん?」
呼びかけた惣一朗に、幹人はいつものように顔を向ける。