ちょうどというタイミングで帰宅したこの家の主は、悟におおらかな態度を取った。続く言葉で、湖雪の誰何は確信に変わる。
「敬人(たかひと)叔父上はいないのかい?」
敬人――大叔父様。
「はい。私一人で来ました。父は……申し訳ありません。私の勝手な理由ですが、惣一郎に用がありまして」
「ん? そうかい。まあ、弟だ。逢いたくもなるだろう。入りなさい」
弟――。幹人は確かにそう言った。
湖雪は惣一郎を見上げる。彼は、困惑の様子もなく無表情だった。
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「惣一郎様……」
幹人が悟を連れて客間まで歩く。早子はそのすぐ後ろにつき、惣一郎と湖雪は数歩遅れてついた。湖雪は不穏な空気を感じ取り、惣一郎の服の裾を摑んでいた。
惣一郎は湖雪を見下ろし、ちょっとだけ口の端を持ち上げた。
「大丈夫だ。湖雪の責任を取るのは俺だから」
そっと指先を包み、そんなことを囁く。こんなときだが湖雪の頬は熱くなる。それを見て、惣一郎はもう少しだけ微笑んだ。
「惣一郎くん、湖雪、何をしているんだ。早く来なさい」
幹人に呼ばれ、二人は歩を進めた。
惣一郎の手が、一瞬だけ湖雪の右手を包みこんだ。