……十年前、初めて見る雪。その降りしきる中。
少女は母に手を引かれて、古い造りの垣根に沿って歩いていた。
道中、どこに向かっているか、とか、母に訊きたいことは山ほどあったが、滅多に家にいない母との外出に少女は心躍らせていた。
電車を乗り継いでやってきたのが、この旧い家の連なる雪の中だった。
繋いだ手は温かくて、雪の粒が降りては溶けていく。
だんだんと母の歩く速度は遅くなり、反対に手に力がこもっていった。……どこに向かっているのだろう。お母さんは望んでここに来たのではないの?
疑問がたくさん浮かんでくるが、さすがに繋いだ手が痛くなって訴えると母は、今度は自分の唇を噛みしめた。つ、と血が流れる。紅い鮮血――雪のように白い面差しの母の、いつも綺麗な桜色の唇は色を失っていた。
その血で紅く染められるために色を失くしていたのではないかと少女は思った。
長いこと歩いてやってきた、ひとつの重厚な造りの門の前に二人の着物の青年が立っていた。まるで二人が来るのを待ち構えているようだった。
一度母は足を止めると、少女を見下ろした。少女も母を見上げる。……手は、もう痛みを感じないほど強く握られていた。
母のその瞳には涙がたくさん浮かんでいて、少女は嫌な予感がした。
「お――」
おかあさん、と口が紡ぐ前に、少女は門前に立っていた二人の青年が近づいてきて、身を竦めた。
「お待ちしておりました」