ペテンにまみれた旅路を、無垢なルリは疑わない。目の見えないルリの前で、俺の視力が戻るまで寝たふりを続けることは簡単だった。
サッカーで怪我をしたというのは嘘だけれど、昔サッカーをしていたのは本当だった。だから、体力、特に脚力には自信があった。しかし、相当激しい運動をしたため、極端に病状は進行した。いくらなんでも見える時間が1時間以上減るとは思わなかった。
それでも、このハイテク社会で機械を使えばすぐに足がつく。自動歩行ロボットが捜査を攪乱してくれている間に、古代文明の利器である自転車を使ってルリの夢を叶えに行く。神様じゃない俺が奇跡を起こすためには身を削るしかない。
タイムリミットは警察の目をごまかしきれる期間だと思っていたが、先に俺の視力の方に限界がきそうだ。このペースだと、間に合わない。俺は焦った。でも、海岸沿いの一本道を歩くだけであれば、目が見えなくてもきっと問題はない。さすがに何も見えない状態でルリを後ろに乗せて自転車に乗るわけにはいかないので、おぶって歩くことにした。
ルリが目覚めた後も、俺の視力は戻らない。何も見えていないのに適当なことを言った。
「白い砂浜に青い海が綺麗だよ」
視力が戻って、失敗に気づいた俺は浜辺の雰囲気が変わったことにしてごまかした。その後、ぼろが出ないように黙っていたら、ルリに心配をかけてしまったので、人や天気といったその場限りのボロの出ない嘘を数え切れないほどついた。
見える時間がだいぶ短くなり、見えない時間に自転車を押す労力と見える時間に自転車に乗るメリットを秤にかけて、自転車を捨てることにした。自転車が壊れたと嘘をついた。壊れたのは自転車じゃなくて俺の目だ。
ついに海岸沿いを離れて見える時間がほとんどなくなり、どうしようもなくなった俺は禁じ手を使う。ずっと電源を切っていた、ピアス型の端末を起動した。GPSと音声ナビをつける。警察の捜査の手はすぐに伸びてくるだろう。でも、こうでもしないとたどり着かない。一か八かの賭けだった。音声ナビに紛れて、右耳から俺たちの逃亡のニュースが何度も流れた。
「目的地に到着しました。音声ガイドを終了します」
ピアスから流れる音声。あとは、ルリの視力が戻る時間を待つだけ。どうか間に合ってほしい。警察のドローンの音が聞こえて、もうダメかと思った時、ルリは言った。
「綺麗……!」
ミッションコンプリート。不可能を可能にした。嘘を突き通して本当にした。ルリの声はキラキラと輝いていた。もうルリの顔が見えなくても、生涯忘れることはないあの眩しい笑顔でルリが笑っているなら、それだけで十分だ。
記憶の中には、俺に笑顔を向けてくれる唯一無二のラプンツェル。もう一生分美しいものを見たから悔いはない。
「世界で一番綺麗な青だよ。生まれたばっかりの赤ちゃんの瞳みたいに、何者にも染まってない澄んだ色。私、きっとこの花を見るために生まれてきたんだね」
ルリの青く澄んだ声が奏でる言葉から、ルリの目に映る世界を想像する。光を失った俺のまぶたの裏に広がるネモフィラの花畑は、そしてその中であどけない顔で笑うルリは今まで見たどんな景色よりも美しかった。
サッカーで怪我をしたというのは嘘だけれど、昔サッカーをしていたのは本当だった。だから、体力、特に脚力には自信があった。しかし、相当激しい運動をしたため、極端に病状は進行した。いくらなんでも見える時間が1時間以上減るとは思わなかった。
それでも、このハイテク社会で機械を使えばすぐに足がつく。自動歩行ロボットが捜査を攪乱してくれている間に、古代文明の利器である自転車を使ってルリの夢を叶えに行く。神様じゃない俺が奇跡を起こすためには身を削るしかない。
タイムリミットは警察の目をごまかしきれる期間だと思っていたが、先に俺の視力の方に限界がきそうだ。このペースだと、間に合わない。俺は焦った。でも、海岸沿いの一本道を歩くだけであれば、目が見えなくてもきっと問題はない。さすがに何も見えない状態でルリを後ろに乗せて自転車に乗るわけにはいかないので、おぶって歩くことにした。
ルリが目覚めた後も、俺の視力は戻らない。何も見えていないのに適当なことを言った。
「白い砂浜に青い海が綺麗だよ」
視力が戻って、失敗に気づいた俺は浜辺の雰囲気が変わったことにしてごまかした。その後、ぼろが出ないように黙っていたら、ルリに心配をかけてしまったので、人や天気といったその場限りのボロの出ない嘘を数え切れないほどついた。
見える時間がだいぶ短くなり、見えない時間に自転車を押す労力と見える時間に自転車に乗るメリットを秤にかけて、自転車を捨てることにした。自転車が壊れたと嘘をついた。壊れたのは自転車じゃなくて俺の目だ。
ついに海岸沿いを離れて見える時間がほとんどなくなり、どうしようもなくなった俺は禁じ手を使う。ずっと電源を切っていた、ピアス型の端末を起動した。GPSと音声ナビをつける。警察の捜査の手はすぐに伸びてくるだろう。でも、こうでもしないとたどり着かない。一か八かの賭けだった。音声ナビに紛れて、右耳から俺たちの逃亡のニュースが何度も流れた。
「目的地に到着しました。音声ガイドを終了します」
ピアスから流れる音声。あとは、ルリの視力が戻る時間を待つだけ。どうか間に合ってほしい。警察のドローンの音が聞こえて、もうダメかと思った時、ルリは言った。
「綺麗……!」
ミッションコンプリート。不可能を可能にした。嘘を突き通して本当にした。ルリの声はキラキラと輝いていた。もうルリの顔が見えなくても、生涯忘れることはないあの眩しい笑顔でルリが笑っているなら、それだけで十分だ。
記憶の中には、俺に笑顔を向けてくれる唯一無二のラプンツェル。もう一生分美しいものを見たから悔いはない。
「世界で一番綺麗な青だよ。生まれたばっかりの赤ちゃんの瞳みたいに、何者にも染まってない澄んだ色。私、きっとこの花を見るために生まれてきたんだね」
ルリの青く澄んだ声が奏でる言葉から、ルリの目に映る世界を想像する。光を失った俺のまぶたの裏に広がるネモフィラの花畑は、そしてその中であどけない顔で笑うルリは今まで見たどんな景色よりも美しかった。



