母は4月末、ちょっとした不注意で階段を踏み外し、股関節を骨折したのだ。

そそっかしい母だ。

お陰で俺は母の代わりに姉と交代で家事をしている。

母と少し話し洗い物を受け取り、1階のロビーに降りると、総合待合室に見慣れた制服の女子を見つけた。

「小鳥遊?」

あの雨の日、染々とみつめた彼女を見間違えるはずがなかった。

「小鳥遊、ここに通院しているんだな」

ずっと気になっていたことを 彼女に話しかけるチャンスだと、勇気を振り絞った。

「えっと……仁科(にしな)くん? だよね」

彼女は受付番号票を握りしめたまま、俺に振り向いた。

「仁科くんも通院?」

「いや、俺は母の見舞い。足、骨折して入院してるんだ」

「そう、たいへんだね。お母さんが入院だと家事とか」

「まあな。適当にやっているよ」

「……わたしも骨折だったら良かったな。そうしたら1ヶ月ちょっとで完治だったのに」