ラッシュアワーの電車を降り、オフィス街に入ると、ビルとビルの間を風が吹き抜ける。

紗世は風を避けるように、足早に会社へ向かう。

相田と話して以来、紗世は結城のことが気になって仕方ない。

結城が時折、長い溜め息を漏らすたび、結城の顔色を見る。

黒田芽以沙が「麻生さん、ちょっと」と紗世を呼び、結城の体調や機嫌が解る仕草や癖を伝授する。

紗世はさすが結城の元上司だと感心するが、黒田はツンと澄まして「当たり前でしょ」見たいな顔をする。

相田は紗世に度々、結城の様子を訊ねる。

紗世はミステリー作家『西村嘉行』が、初対面の時に言っていた「前のお嬢さんとは違うな」という言葉と、結城が一瞬見せた強張ったような表情。

相田に結城の様子を訊ねられるたび、思い出す。


紗世が編集部に着くと、渡部が紗世を呼ぶ。