「あの、いいんですか?」

「何で?」

「だって……」

「俺、残業嫌いなんだ」

「嫌いとか好きとかではなくてですね……」

「何、残業したいのか?」

紗世はブンブンと首を振る。

「だったら問題ないだろ。 アフター7とか、ちゃんと楽しめよ」

紗世が「あっ」と声を漏らす。

人事異動通知書をもらった日。

同期で総務部の愛里との女子会が流れたままだ。


結城について仕事を覚えるのに必死で、会社と家とを行き来するだけの日々が半月も続いている。

「息抜きも大事だ。同期の仲良しと夕飯食べたり、雑談したり、そういう時間は大切にしろよ」

「結城さんは?」

紗世は潤んだ瞳で結城を見上げる。

「……今日は家で早く休みたい」

気だるそうな疲れた声。

紗世は「顔色が悪いな」と思う。