調度品の場所も照明スイッチの位置まで、細かく丁寧に。

紗世は迷うことなく行動できた。

「結城くん、君は仕事が速いし丁寧で助かるよ」

西村はA4用紙に印刷された文章を目で追いながら、ニコチンフィルターを付けた煙草を吸う。

「やれ字が汚い、やれもっとゆっくり話せだのと、一切愚痴を言わないし、君のタイピングは誤字脱字の心配もない。君が担当になってからは、ストレスが溜まらないんだ」

「ありがとうございます」

西村は奥歯が見えるほど口を開け、だらしなく脂肪のついた体を揺さぶり豪快に笑う。

「あんなに高速打ちして、ノーミスなんですか?」

紗世は目を丸くし、口を無駄にパクパクさせる。

「紗世ちゃんと言ったかね、読んでみたまえ」

紗世は、西村の差し出した原稿を両手で、受け取ろうと手を伸ばす。