西村は、そう言って葉巻き煙草を深く吸って、紫煙を吐き出す。

立ち上る紫煙の香りは、安煙草のそれとはまるで違う。

芳醇な香りだ。

「ゴーストはどうなったんだい? 万萬詩悠が結城くんだという噂、まあ聞いて違和感はないがね」

「ゴーストの件は編集部に、問い合わせが未だに続いています」

「沢山くんは焦っていないかい!? 万萬詩悠を連載にぶつけるとは……円山出版は実に酷なことをする」

「先生?」

「あの主人公、あの文章は結城くんを思い描かせる」

「先生もそう思われるんですか」

紗世がニコニコして言う。

「あの詩的な文章、洗練された美しさは格別だ」

西村の賛嘆は更に続く。

「『限りなく』は白黒の水墨画のようだった。連載中の『空と君』は1話ごとに色が足されていっている。気づいているかね?」