穏やかに淡々と話す。

「……あんなショボい嘘が、いつまでもバレない筈がないのに……『お前だよな』って、言ってくれるのを待ってたのかもしれない」

結城は身をぶるっと震わせる。

見つめている紗世に「窓を閉めて」と、手で合図する。

紗世は「寒いですか?」とポツリ言って立ち上がり、空を見上げて窓を閉める。

「曇ってきましたね」

「……天気予報は雨になると言っていた」

結城は静かに呟き、胸に手をあてる。

「あの……何故『万萬詩悠』に」

紗世が遠慮がちに訊ねる。

「気づいたら……そうしてた。黒田さんの事故の後、急に喋れなくなって、眠れなくなって……リハビリに通い始めた時に、主治医から思いを吐き出せって言われて……『限りなく』を書き始めた」

「あっ」

紗世が小さく声を漏らす。