「はい」

返事をした紗世の目に涙が溢れる。

紗世には何故、涙が溢れるのかわからない。

結城の声に、ただ安心する。

手の甲にある傷は、部内の女の子を守ろうとして怪我をーー愛里との会話が甦る。

――何かあったら俺が責任をとる

結城の細い姿に似合わない力強い言葉が、紗世の胸を熱くする。


――言っておくが格闘は、3分もたないからな


「格闘……何言ってるんですか」


――早く休めよ、じゃあな


紗世は「お休みなさい」と電話を切った。


――返信を待ってくれていたんだろうか?
不安げな様子を感じて電話をかけてくれたんだろうか?

紗世の耳に、掠れ気味で疲れたような結城の声の余韻。

――3分もたない

駐車場で襲われた時に叫んだ結城。

あの時の叫びと、さらり「明日は定期検診だから」電話口で言った、結城の言葉が紗世を不安にさせる。