愛里は「黒田」の名前に怯えたような表情をする。

「鬼の局様『黒田さん』が言うなら間違いないね」

「愛里、浅田さんの方がわたしは鬼かなって思うんだけど」

「そお~?」

「だって、結城さんが浅田さんを振ったのって1年以上も前なんでしょ!?」

「……確か、1年半くらいかな。黒田さんが事故で入院してた時だったと思う」

紗世は身を乗り出すように、愛里の話に耳を傾ける。

「結城くん、事故の後1年近くちゃんと喋れなくて筆談だったみたい。リハビリにも通ってたんじゃないかな」

「結城さんが……喋れなかった!?」

「うん、喋れなくて外回りや担当が勤まるのかって言われてた……紗世?」

「わたし、結城さんは順風満帆に生きてる人だって思ってた。体は弱いけど、それ以外は自由に」


――わたし……結城さんのこと、何も知らない