駐車場へ向かう僅かな距離。

黒田は激しくなる雨に、足を早め後ろを振り返りもしなかった。

青信号を確かめ、渡り始めた横断歩道。

猛スピードで、青信号の横断歩道に走り込んで来たバイク。

黒田は結城の叫び声を聞き振り返った。

刹那――。

結城の伸ばした腕と同時に、結城が胸を押さえ蹲る。

黒田の体に衝撃と鋭い痛みが襲ったのは、その直後だった。

救急車の中。
結城の呼ぶ声と、しっかりと握った結城の手の温もりを感じた。

「原稿を頼んだわよ」

黒田はそれだけしか言わなかった。

――由樹は悪くない

結城の額に、冷熱シートをそっと貼る。

冷熱シートの冷たいジェルの感触に、結城が眉をしかめ、額に手を当てる。

「……ん、冷たっ」

雨はまだ止まない。

黒田は熱の高い結城の体を支え、ソファーに寝かせ、暫く結城を看ていた。