黒田が雨に濡れたアスファルトに、ヒールが不便だと感じるのは、いつものことだ。

黒田は恨めしそうに、空を見上げる。

通い慣れた道を踏みしめる。

言葉よりも先に、幾つも先を見越して動く優秀な若い部下「結城由樹」の姿を思い浮かべる。

――もう1年半になる

黒田が最後に、結城を連れて西村嘉行宅を訪れ1年半が過ぎた。

外回りを殆んどしなくなっても、ヒールを履き続ける黒田。

――黒田さん、もう少しゆっくり歩いてください


同行する結城は、いつも頼りない声で、黒田の背中に声を掛けた。

――しっかりしなさい

後ろを振り返り、結城が追いつくのを待ち、再び歩き出す――その繰り返し。

――あの日も……こんな風に雨が降っていた

黒田はいつもに増して、荒い結城の息遣いを感じながら、歩調を緩めなかった。