西村は紫煙を燻らせながら、穏やかに笑う。

黒田は結城をそっと起こし声を掛け、ふらつく結城から車の鍵を受け取り、結城の自宅に向かう。

結城は「すみません」と、一言いったきり何も言わない。

雨を弾くワイパーの音が規則正しく響く。

「病院へはちゃんと行ってるの?」

結城はこたえない。

虚ろな瞳で、窓を打つ雨をただ見ている。

「用心していたんだけど」

ポツリ溢す。

「昨晩、何かあったの?」

「あ……麻生が何か話しましたか?」

「いいえ、何となく」

「……駐車場で、襲われて……麻生に助けられました」

「あの子、面白いスキルを持ってるわね。空手3段なんて」

「見かけによりませんね」

「編集長は知っていたみたい」

「人が悪いな、話してくれても」