――笑い事じゃないわよ

黒田が送ったメールに、相田の返信はない。

「編集長、沢山先生もご存知だそうです」

「不味いな……芽以沙、すまんが由樹を迎えに行って家まで送り届けてくれ」

渡部は腕組みをし、気難しい顔のまま溜め息をつく。

「此処では話せないことや、お前になら話せることもあるだろうからな」

「はい」

出掛ける用意を始める黒田に、渡部が「頼んだぞ」穏やかに言う。

ミステリー作家「西村嘉行」からの電話によれば、噂を聞いたのは文藝夏冬社とユーカリ社。

結城が梅川百冬から「万萬詩悠」起用の情報を得たのも、文藝夏冬社。

渡部は文藝夏冬社に、その辺りをつついてみる必要があるなと思う。

黒田が出掛け入れ違いに、編集部に戻ってきた紗世は不穏な空気を感じつつ、席につく。

「黒田さん、どちらに出掛けられたんですか?」