結城は自分の腕の2倍ほどもある腕に、懸命に抵抗する。

紗世に近づけないために。

「早く……ゴホッ……時間切れになる前に……ゴホッゴホッ……紗世!!」

結城の体が均衡を崩し大きく揺らぐ。

細い腕が虚しく剥がされ、黒い影が紗世に襲いかかる。

「……紗世!!」

叫びながら、結城の体が崩れるように沈む。

黒い影が紗世の腕を掴み、捻ろうとした刹那、雄叫びのような呻き声が響いた。

結城は朦朧とする意識で、霞む目を眇める。

紗世が黒い影の腕を捻り、背中に膝を乗せ、体重をかけ押さえつけている。

―――!?

結城は何が起きているのか、わからない。

もがき暴れる、がっしりとした体躯が紗世の封じを交わし、立ち上がる。

次の瞬間、紗世の姿が宙を舞った。

真っ直ぐに伸びた右足が、黒い影の顔面を思い切り蹴り上げる。