紗世は立ち尽くしたまま動かない。

「麻生、早く」

結城は言いながら、背後の影に抵抗し、腹に肘鉄砲をめり込ませる。

呻き声を上げ後ずさる影は、すぐさま結城の肩を捕らえ結城の動きを遮る。

「麻生、早く行け」

「……イヤです」

叫びながら足掻く結城の抵抗が、相手には全く効果がない。

「何してる!? ……早く……行け……」

結城の耳元でフッと笑い声がし、素早く紗世に襲いかかる。

結城がスッと、その足を蹴りとばす。

膝を思い切り地面に打ち付け呻きながら、立ち上がる黒い影。

結城は懸命に食い止める。

「逃げろ……早く……麻生!!」

「結城さん!?」

紗世に黒い影を、近づけまいと抵抗する結城の息遣いが乱れる。

「早く……行け……、3分持たない」

「……結城さん!!」

「早く……ゴホッ……逃げろ、紗世!!」