梅川が腕組をして、結城を見下ろす。


「円山では沢山江梨子の連載に、昨年の群青新人賞『限りなくグレーに近い空』の万萬詩悠をぶつけるそうだね?」


「……俺は存じ上げませんが」

結城は眉を微かに動かし、梅川を一瞥する。

「君が知らないとなるとデマか……」

「どちらからの情報です? あの沢山先生に、万萬詩悠とはまた無謀な賭けとしか思えませんが」


「文藝夏冬の担当から聞いたんだが、付き合っている女から聞いたと。何て名前だったかな……アンといったか?」

「アン!?」

「そう、アンだ」

結城の手がピタリと止まり、毅然と梅川の目を見つめる。

「何れにしても、万萬起用の話を俺は聞いていませんね」

結城は声1つ震わせず、顔色1つ変えず、知らないと嘘をつき通す。