「ディック、この道で合ってるのかい?」
「うん、後はここを進めばギルガリーザ商会本部が見えて来るよ」
アリスが先頭になって気絶している司令官と同僚達を空中にぷかぷか浮かばせながら運搬して歩いていくと、その存在に気付いた人達は勝手に道を開けていく。
異様な光景に驚いて道を開けているのか、アリスに本能から恐怖しているのか判らないけど、真後ろから見ていると勝手に道が開かれていくので、とても気分がいい。
そんな王様気分も束の間、気がついたら商会本部の目の前まで来てしまった。
入口の前には三人の女性がこちらを見ていた。
一人目は小柄で白衣を纏っており、眼鏡をかけている。目つきは鋭く気が強そうな女の子。研究者のコスプレをした…… 杖を所持している所から魔法使いなんだろうか? パッと見た感じは一番年下の様だけど、一番態度は大きく見える。
二人目はウェーブの掛かった金髪女性で修道服を羽織っている。色っぽい顔つきだけでなくおっぱいが滅茶苦茶でかい。ウチもそれなりに自信があるけど、間違いなくウチよりでかい。職業はシスターかな?
三人目は健康そうな褐色肌の女性で笑顔が眩しい。随分と軽装の様だけど、立ち振る舞いから剣士だと思われる。スピードで翻弄するタイプなんだろうか。にしてもおっぱいが結構大きい。金髪女性程ではないがウチと同レベルか。
あれ……? この組み合わせってたしか…… と思っていたらアリスが三人に話しかけていた。
「君達の方が先についていたんだね。待たせてすまないな」
やっぱりディック達のパーティーメンバーだったんだ。小柄な少女がこちらに近づいてくる。
「私達もつい先ほど到着したばかりだから気にしなくていいわ。えっと…… その宙ぶらりんになっている連中がディックに粗相したお馬鹿さん達かしら?」
「あぁ、この場で見せしめに公開処刑を何度してもズタズタに切り裂いても四肢を捥いで眼球を刳り貫いて鼻と耳をそぎ落としても尚足りない程に罪深い連中さ」
こっわ…… 何言ってんの? この人…… 暗殺者のウチよりえぐい事を平気で口にするこの人は相変わらずヤバすぎるでしょ。
うわっ、しかもまたあの闇よりも暗い目が垣間見えたのでウチは速攻で目を逸らした。感情でいとも簡単に左右されるとかディックが関わると病みすぎでしょ闇だけに…… なんつって。
しかし小柄の少女はそんな目をしたアリスに全く気にすることなく対応している。
「アリス、前から言ってるけど怯える人がいるからその目は止めなさい」
いや、怯えるどころではないが? 目を見ただけで息苦しくなって昏倒するレベルだよ? ウチらですらこれなのに一般人が食らったら昇天すること間違いなしだよ? もう少し基準を下げてあげてね。
というかこの少女はアリスの視線に動じもしない…… つまりはアリスと同格の存在ということになる。
恐らくこの少女こそが『異端魔女 マリー』なんだと思う。
見た目は研究者の真似事をした痛い子供なんだけど、実際は世界の技術レベルをひっくり返す程の超天才児。
お次はあの金髪女性……
「そうですか…… そうですか…… この方たちがディックに精神的苦痛を与えた罪人達ですね。ククッ…… イヒヒヒヒ…… ケヒャヒャヒャ…… アハハハハハーハハハハ…… ふう、落ち着きました。神への贄として生きたまま全身を切り刻んで差し上げましょう。指の先からじっくりと一ミリ単位で切り刻んで上げます。あなた方の苦痛の悲鳴すら神への供物となるでしょう」
こっわ…… 何言ってんの? この人…… 情緒不安定過ぎん? アリスよりタチ悪い内容を口にしていた気がするのは気のせい? 彼女の雄叫びにも似た笑い声は背筋が凍るほどに恐ろしかった。まるで物語に登場する悪魔の様な笑い声…… ん? 悪魔?
そうか、彼女の二つ名には最初「なんだこの矛盾は?」と疑問を持っていたが今ので理解したよ。周りの見る目は正しかったのだと。
『神の下僕を自称する悪魔 リシェル』
見た目の麗しさと本性は一致しない良い典型かもしれない。
最後は褐色肌の女性は……
「何はともあれディックが無事でよかったよ…… クンクン…… ん? ディックさあ、昨日五時間半しか寝てないよね? ちょっと睡眠不足じゃないかな? それに肩と腰に疲労が溜まってるみたいだね、後でマッサージしてあげるよ」
後ろからディックに抱き着いて頭の匂いを嗅いでる…… ちょっと! アンタ何やってんのよ、どきなさいよ!
「あ、ありがとう。あのさ、セリーヌ…… 周りの人も見てるし外で密着するのは出来れば控えて欲しいんだけど」
「絶対ヤダ! だって君、今日ずっとアリスと一緒だったでしょ? それにマリーから聞いたよ、ディックが荷物配達の途中で女の子を助ける為に暴漢達の間に割り込んだって? そりゃ体に疲労も溜まるよね」
「いつも思うんだけどさ、なんで僕の睡眠時間と身体の疲労具合が判るの……?」
「そんなの簡単だよー、ディックの身体の匂い――特に判りやすいのは頭皮を嗅ぐだけでなんか判るの。もしくは汗とか舐めても判るよ。ちなみに抜け毛の匂いを嗅いだら現在の居場所まで判るんだから…… 迂闊な行動しちゃダメだからね」
こっわ…… 何言ってんの? この人…… 匂いを嗅いで睡眠時間が判る? 身体の疲労具合が判る? 抜け毛で居場所が判る? もしかして保管でもしてるの? そう考えたら背筋に悪寒が走った。一番爽やかでまともに見えたのは一瞬で、一番ヤバイ特技の持ち主だった。
『破壊の化身 セリーヌ』
そんな彼女だけど、ウチが聞いた話では聖剣を超える剣を保持しており、一度振るうと地図が書き換わる程の威力があるらしい。この二つ名はそこから来たとか聞いたけど、本当かは不明。ただ、あのアリスの仲間という時点で割と信憑性はある。
ディックのパーティーメンバーを一歩離れたところから見ていたところ、視線を感じた。
まるで隠そうともしない…… いや、隠す必要もないのかウチに対する警告と敵視の視線を送って来たリシェルが近づいてきた。
「貴方の事はマリーから聞いています。最初に言っておきますが、ディックは皆に優しいのです。勘違いしてはダメですよ? 貴方にだけ特別優しい訳ではありませんからね」
その台詞を聞いたセリーヌはディックに抱き着いたまま首だけこちらに向けて笑っていた。
「リシェル、君は初対面の人にはそれを言わないと気が済まないの? アタシと初めて会った時も同じ事言ってたよね」
「当たり前です! セリーヌみたいな勘違い女がこれ以上増えてしまっては困ります! 貴方もいい加減にディックから離れなさい!」
「ヤダ!」
そんな他愛もないやり取りをしていたらマリーが近づいてきて「そろそろ行くわよ」と言って商会本部に入っていった。
ウチ達も遅れない様にマリーの後について行った。
先に入ったマリーは受付嬢に何かを耳打ちしているようで、何を言われたのか顔面蒼白になった受付嬢が「す、すぐに確認してまいります。少々お待ちください!」と言い残して奥に入っていった。
マリーはその様子を見て満足そうにしていたが、ディックは気になったみたいでマリーに尋ねていた。
「ねぇ、マリー。あの人に一体何を言ったの?」
「ディックも覚えておいた方がいいわよ、この世界の九割の出来事は情報と暴力で方が付くものよ。あの受付嬢は既婚者にも関わらず、商会の幹部と不倫関係にあるの。あぁ、別に脅したわけじゃないのよ、ただ「私はその事を知っている」という事を教えてあげただけ…… そしたらあんなに顔を真っ青にしちゃって…… フフッ、人様に言えない事はするものじゃないわね。ディックはそんな不誠実な事をしないって知ってるからね」
ちょ、ちょ、ちょっと! 少女の口から出てはいけない単語を色々と聞いた気がするのだけど? ディックを信じてるみたいな事を言ってるけど、目はめっちゃ据わったままディックを見つめている。
一番理性的に見えて、一番ヘラってのは彼女なのかもしれない。そんな重苦しい雰囲気の中、受付嬢が戻ってきて「確認が取れました。ご案内しますのでこちらへどうぞ」と受付嬢について行く。
案内された先に巨大な扉…… 今日は商会の幹部が集まって会議を行っているらしい。この扉の奥に主要メンバーが全員いる訳だ…… 辞表を叩きつける準備も出来ている。
そして扉は開かれる…… いざ出陣!
「うん、後はここを進めばギルガリーザ商会本部が見えて来るよ」
アリスが先頭になって気絶している司令官と同僚達を空中にぷかぷか浮かばせながら運搬して歩いていくと、その存在に気付いた人達は勝手に道を開けていく。
異様な光景に驚いて道を開けているのか、アリスに本能から恐怖しているのか判らないけど、真後ろから見ていると勝手に道が開かれていくので、とても気分がいい。
そんな王様気分も束の間、気がついたら商会本部の目の前まで来てしまった。
入口の前には三人の女性がこちらを見ていた。
一人目は小柄で白衣を纏っており、眼鏡をかけている。目つきは鋭く気が強そうな女の子。研究者のコスプレをした…… 杖を所持している所から魔法使いなんだろうか? パッと見た感じは一番年下の様だけど、一番態度は大きく見える。
二人目はウェーブの掛かった金髪女性で修道服を羽織っている。色っぽい顔つきだけでなくおっぱいが滅茶苦茶でかい。ウチもそれなりに自信があるけど、間違いなくウチよりでかい。職業はシスターかな?
三人目は健康そうな褐色肌の女性で笑顔が眩しい。随分と軽装の様だけど、立ち振る舞いから剣士だと思われる。スピードで翻弄するタイプなんだろうか。にしてもおっぱいが結構大きい。金髪女性程ではないがウチと同レベルか。
あれ……? この組み合わせってたしか…… と思っていたらアリスが三人に話しかけていた。
「君達の方が先についていたんだね。待たせてすまないな」
やっぱりディック達のパーティーメンバーだったんだ。小柄な少女がこちらに近づいてくる。
「私達もつい先ほど到着したばかりだから気にしなくていいわ。えっと…… その宙ぶらりんになっている連中がディックに粗相したお馬鹿さん達かしら?」
「あぁ、この場で見せしめに公開処刑を何度してもズタズタに切り裂いても四肢を捥いで眼球を刳り貫いて鼻と耳をそぎ落としても尚足りない程に罪深い連中さ」
こっわ…… 何言ってんの? この人…… 暗殺者のウチよりえぐい事を平気で口にするこの人は相変わらずヤバすぎるでしょ。
うわっ、しかもまたあの闇よりも暗い目が垣間見えたのでウチは速攻で目を逸らした。感情でいとも簡単に左右されるとかディックが関わると病みすぎでしょ闇だけに…… なんつって。
しかし小柄の少女はそんな目をしたアリスに全く気にすることなく対応している。
「アリス、前から言ってるけど怯える人がいるからその目は止めなさい」
いや、怯えるどころではないが? 目を見ただけで息苦しくなって昏倒するレベルだよ? ウチらですらこれなのに一般人が食らったら昇天すること間違いなしだよ? もう少し基準を下げてあげてね。
というかこの少女はアリスの視線に動じもしない…… つまりはアリスと同格の存在ということになる。
恐らくこの少女こそが『異端魔女 マリー』なんだと思う。
見た目は研究者の真似事をした痛い子供なんだけど、実際は世界の技術レベルをひっくり返す程の超天才児。
お次はあの金髪女性……
「そうですか…… そうですか…… この方たちがディックに精神的苦痛を与えた罪人達ですね。ククッ…… イヒヒヒヒ…… ケヒャヒャヒャ…… アハハハハハーハハハハ…… ふう、落ち着きました。神への贄として生きたまま全身を切り刻んで差し上げましょう。指の先からじっくりと一ミリ単位で切り刻んで上げます。あなた方の苦痛の悲鳴すら神への供物となるでしょう」
こっわ…… 何言ってんの? この人…… 情緒不安定過ぎん? アリスよりタチ悪い内容を口にしていた気がするのは気のせい? 彼女の雄叫びにも似た笑い声は背筋が凍るほどに恐ろしかった。まるで物語に登場する悪魔の様な笑い声…… ん? 悪魔?
そうか、彼女の二つ名には最初「なんだこの矛盾は?」と疑問を持っていたが今ので理解したよ。周りの見る目は正しかったのだと。
『神の下僕を自称する悪魔 リシェル』
見た目の麗しさと本性は一致しない良い典型かもしれない。
最後は褐色肌の女性は……
「何はともあれディックが無事でよかったよ…… クンクン…… ん? ディックさあ、昨日五時間半しか寝てないよね? ちょっと睡眠不足じゃないかな? それに肩と腰に疲労が溜まってるみたいだね、後でマッサージしてあげるよ」
後ろからディックに抱き着いて頭の匂いを嗅いでる…… ちょっと! アンタ何やってんのよ、どきなさいよ!
「あ、ありがとう。あのさ、セリーヌ…… 周りの人も見てるし外で密着するのは出来れば控えて欲しいんだけど」
「絶対ヤダ! だって君、今日ずっとアリスと一緒だったでしょ? それにマリーから聞いたよ、ディックが荷物配達の途中で女の子を助ける為に暴漢達の間に割り込んだって? そりゃ体に疲労も溜まるよね」
「いつも思うんだけどさ、なんで僕の睡眠時間と身体の疲労具合が判るの……?」
「そんなの簡単だよー、ディックの身体の匂い――特に判りやすいのは頭皮を嗅ぐだけでなんか判るの。もしくは汗とか舐めても判るよ。ちなみに抜け毛の匂いを嗅いだら現在の居場所まで判るんだから…… 迂闊な行動しちゃダメだからね」
こっわ…… 何言ってんの? この人…… 匂いを嗅いで睡眠時間が判る? 身体の疲労具合が判る? 抜け毛で居場所が判る? もしかして保管でもしてるの? そう考えたら背筋に悪寒が走った。一番爽やかでまともに見えたのは一瞬で、一番ヤバイ特技の持ち主だった。
『破壊の化身 セリーヌ』
そんな彼女だけど、ウチが聞いた話では聖剣を超える剣を保持しており、一度振るうと地図が書き換わる程の威力があるらしい。この二つ名はそこから来たとか聞いたけど、本当かは不明。ただ、あのアリスの仲間という時点で割と信憑性はある。
ディックのパーティーメンバーを一歩離れたところから見ていたところ、視線を感じた。
まるで隠そうともしない…… いや、隠す必要もないのかウチに対する警告と敵視の視線を送って来たリシェルが近づいてきた。
「貴方の事はマリーから聞いています。最初に言っておきますが、ディックは皆に優しいのです。勘違いしてはダメですよ? 貴方にだけ特別優しい訳ではありませんからね」
その台詞を聞いたセリーヌはディックに抱き着いたまま首だけこちらに向けて笑っていた。
「リシェル、君は初対面の人にはそれを言わないと気が済まないの? アタシと初めて会った時も同じ事言ってたよね」
「当たり前です! セリーヌみたいな勘違い女がこれ以上増えてしまっては困ります! 貴方もいい加減にディックから離れなさい!」
「ヤダ!」
そんな他愛もないやり取りをしていたらマリーが近づいてきて「そろそろ行くわよ」と言って商会本部に入っていった。
ウチ達も遅れない様にマリーの後について行った。
先に入ったマリーは受付嬢に何かを耳打ちしているようで、何を言われたのか顔面蒼白になった受付嬢が「す、すぐに確認してまいります。少々お待ちください!」と言い残して奥に入っていった。
マリーはその様子を見て満足そうにしていたが、ディックは気になったみたいでマリーに尋ねていた。
「ねぇ、マリー。あの人に一体何を言ったの?」
「ディックも覚えておいた方がいいわよ、この世界の九割の出来事は情報と暴力で方が付くものよ。あの受付嬢は既婚者にも関わらず、商会の幹部と不倫関係にあるの。あぁ、別に脅したわけじゃないのよ、ただ「私はその事を知っている」という事を教えてあげただけ…… そしたらあんなに顔を真っ青にしちゃって…… フフッ、人様に言えない事はするものじゃないわね。ディックはそんな不誠実な事をしないって知ってるからね」
ちょ、ちょ、ちょっと! 少女の口から出てはいけない単語を色々と聞いた気がするのだけど? ディックを信じてるみたいな事を言ってるけど、目はめっちゃ据わったままディックを見つめている。
一番理性的に見えて、一番ヘラってのは彼女なのかもしれない。そんな重苦しい雰囲気の中、受付嬢が戻ってきて「確認が取れました。ご案内しますのでこちらへどうぞ」と受付嬢について行く。
案内された先に巨大な扉…… 今日は商会の幹部が集まって会議を行っているらしい。この扉の奥に主要メンバーが全員いる訳だ…… 辞表を叩きつける準備も出来ている。
そして扉は開かれる…… いざ出陣!