『神守屋』とは京の大通りの隅にひっそりと構えていて、他とは一風変わった商売をしている店である。
屋号の通り、“御守り”を売っている店だ。
外観こそ年季の入った古びた家屋。しかし、神守屋の歴史は浅く、商いを始めたのもここ数年前の話である。齢の割には落ち着いた女店主がたった1人で切り盛りしていた。
看板を掲げた当時は「御守りなんてただの気休めだろう」「金銭の無駄だ」などと、馬鹿にする町民も多かった。神社の家系でもない小娘が金銭を要求すると「卑しい」「小賢しい」と捲し立てられることも、少なくはなかった。
しかし、今では固定客がつくほど一部の人には人気のある店へと成長したのである。その訳は話すと長くなるため、この場では割愛させて頂くが。
そして。
今日も太陽が真上に昇る刻。
少しでも無理に力を働かせたら外れてしまいそうな引き戸を開けたのは、三国清正という男だった。この男もまた、神守屋に足繁く通う常連客の1人である。
彼はひょっこりと顔を覗かせては店主の姿が見えないことを確認すると、前のめりに声を発した。
「瑠璃様、いらっしゃいますか」
その声が届いたのか、奥の方から「少々お待ちください」と凛とした女性の声が聞こえてくる。
店主の存在に男はほっと胸を撫で下ろしたその時、突然後ろからとんっと肩を叩かれた。心臓が飛び出そうなほどに驚いた彼は、勢い良く振り返る。その正体を目にすると、思わずその名前を口にした。
「沖田組長・・・驚かさないで下さいよ」
「見慣れた背中がありましたもので」
それに部下が珍しい店に入っていくのを見たら気になるでしょう。そう言って、揶揄い混じりに笑っている男の名は沖田総司という。まさか見られていたと思っていなかった三国は「勘弁して下さい」と肩を竦めた。