「そうなのっ? 知らなかった……」
「それはあんまり言ってないからな」
「え、でも龍生さんのお祖父さんでしょ? 龍生さんって父さんと同い年だよね?」
「当時八十超えてたかな。すげー元気なじいさんだった。山駆けまわるし。猪狩るし」
「いのしし⁉」
か、狩るの⁉
「なんか、近くの村の人が飼ってた猪が逃げ出して野生化したとかだったかな。狩猟資格持った人がたまに山狩りしてたんだけど、じいさんは猟銃なんてないから鍬(くわ)持って山入って仕留めてきた」
「仕留めるの⁉」
「ああ。だから俺、猪は料理出来る」
「すごっ!」
「猪鍋(ししなべ)とか作らされた」
「なんかカッコいいと思うよ!」
びっくりな特技発覚だ。けど、この辺りに猪がいるという話は聞いたことがない。宝の持ち腐れだ。残念。
「でもそんなワイルドな料理出来るんだったら、普通のご飯作るくらいわけないと思うんだけど?」
「あー、なんでだろうな……。うまくいかないんだ」
床に包丁突き刺すレベルだもんね。
「……咲桜は不思議だな」
ふと、流夜くんがそんなことを言った。
「うん? 料理出来ること?」
「いや。話が尽きない」
「………」
またそうやって平然と言う……。
「そ、そりゃ、母さんのこととか全部話しちゃった流夜くんに隠すことなんてないし……」
「そうかもしれないけど、自分がここまで話が出来ると思わなかった」
「………」
……なんかもうダメだ。
「ごめん、いっぱいいっぱい……」
「ん、どうした?」
煙を吹く直前だった。