「教師になった理由が、そろそろ大丈夫そうだから――早かったら、藤城も今年度で辞めるかもしれない」
「え? あと一年はいるんじゃなかったの?」
「そのつもりだったんだけど、もう教職してなくてもよさそうだし、咲桜もいるし」
「……私?」
先生をやめる理由が、私なの?
「もしばれたとき、教師でなかったら問題度も下がるかな、と。引っ越しとかはしないし、本当に学校を離れるだけだから」
繋いだ手に、力がこもった気がした。……え?
「……私の所為?」
「咲桜の所為っていう、俺のためかな」
「………」
私は、手を握り返すことで、答えた。
選んでくれて、ありがとう。……ごめんね。
永続(なが)を望んでくれているから、だろうか。その決断は。
小さなお店が並んだ通りに入って、一番手前の店を示した。
対象年齢は少し高めで、大学生からOLさん向けの服屋さんなんだけど、あまり可愛い系が似合わないと感じる私はよく来る場所だった。
お店に入って流夜くんの手が離れたのを少し残念に思いながらも、かけられた服を見ていく。
いつも無意識に首の詰まった服ばかりだったけど、こう見ると自分の檻(おり)が狭かったのだとわかる。
「……さっきみたいなこと、たくさんあったの?」
流夜くんはある程度の距離で店の中を眺めている。……案の定、店員さんの視線を奪いまくっているけど。
「さっき?」
「……女の人に声かけられたり」
今もかけられそうだけど。
「んー、どうだったかな。吹雪が慣れてるからあったんじゃないか?」
「………」
どんな学生だったんだ。
「吹雪さんて強いよね……」
「メンタルはな。結構病弱なんだよ、あいつ」
「そうなの?」
吹雪さんが病弱? 振り向くと、流夜くんは苦笑した。