「なんてゆうか……身軽? だよね。学者さんとして大学とかにいる気はなかったの?」
流夜くんは犯罪学者でも、教師もしているために無所属(フリー)だと聞いた。
「前にも言ったけど、少しだけ教師やってる方が都合よくてな。大学で学者ってのは……あんま考えたことなかったな」
「ふーん? 流夜くん、教師二年目だっけ? ……普通の大学卒業から一年くらい、空いてる?」
空いている手で、指折り計算してみると、大学卒業からの一年があることに気づいた。
「その年は色々面倒事片付けてた」
「………」
面倒事の中身を訊くのはなんだか怖かった。魑魅魍魎(ちみもうりょう)がいそうだ。
「来年までは先生なんだっけ?」
「そのつもりだったけど……。その後にも、教師として呼ばれてるとこもあるけど、あまり続ける気はないかな」
「どこの学校?」
「桜宮(さくらのみや)学園」
「桜学(さくがく)⁉ またそんな名門……」
私立の名門・桜宮学園。
藤城や桜庭も有名ではあるけど、桜宮学園は全国レベルの名門だ。
城葉(きば)研究学園都市と称され、企業なんかの研究施設も多くある地域に立ち、初等部から大学部まである。
場所は隣の県で、徒歩でいける範囲ではないけど、特別遠いこともない場所。
流夜くんは斜め上を見てぶつくさ言う。
「教師に顔馴染みがいる所為でなあ。去年教職に就いたって知られたら、なんでこっちに来なかったって、そいつのクラスメイトに総出で怒られた」
「お、怒られた? お友達なの?」
「俺らが中学んときからの知り合いでな。友達というかどうかは……一応、向こうのが年上ではあるけど」
「桜学かー……。もしも教師を続けるにしても、遠くなっちゃうんだね」
「これ以上は教師と本業の両立も面倒になるし、続けないな。ここを離れもしないよ」
「………」
「咲桜がいるしな」
ここには、と小さな声で流夜くんは言った。
それを聞いて、そろりと見上げる。
流夜くんは仕切り直しとばかりに、また斜め上を見た。