呆れた風の声に、咲桜は離れるように俺の胸を押してきた。
廊下にいたのは二年生で、藤城主席と謳われるほど優秀生の夏島遙音だった。
苦虫を噛み潰したような顔をしている。
俺の以前からの知り合いで、素顔の方も承知している。
咲桜が離れようとしたのがまた気に入らなくて、咲桜の肩に腕を廻した。
「流夜くんっ」
「じんぐーって実は独占欲強いのな」
遙音はため息をつく。
「でも人目は気にしろよ。お前は教師辞めれば済むけど、咲桜はそうじゃねえんだから」
「………」
咲桜?
今、遙音は呼び捨てにした?
「咲桜! あーもうごめん咲桜。ちょっと急ぎ過ぎた」
後から駆けて来た松生は、どこか焦った声だった。そしてまた、遙音を見て固まった。
「笑満?」
「あれ、笑満ちゃんもいたんだ」
遙音にも声をかけられた松生は、はっとして次の瞬間には逆方向に駆け出した。
「えっ、今度はなにっ?」
逃げ出した松生。咲桜が肩を抱く俺を見上げてきた。行って来いと瞳で答え、咲桜は腕を離れた。
「……なんなの、この集団」
呆気に取られたような遙音の呟きは、自分はその集団内部である自覚はないようだった。
悪いが俺に関わっちまってる時点も、お前もこっち側だ。