お礼を言いたいのはこっちだよ。流夜くんの存在一つで、私も色々変わってしまった。
……幸せな方に、変えてくれた。
素っ気ない鍵を両手に包んで、咲桜はしばらくそれに見入っていた。昼休み、旧館で渡された合鍵。流夜の部屋のものだった。
家に帰って、キーホルダーをつけてみた。ずーっと前、まだ母・桃子がいたころ三人で出かけた先で買ってもらった、桜のモチーフがついたキーホルダー。大事な時間の思い出がつまりすぎて、大切過ぎて、今までどこにもつけることが出来なかった。けど、この鍵に、桜はやっと落ち着いたようだ。
次の日曜日、一緒に出掛ける約束をした。最後まで『デート』という単語は口に出来なかったことが情けないけど、一日、一緒にいられる日が待っている。楽しみすぎる。
少し離れた、大きな街の駅で待ち合わせることになった。家が近いからここで一緒に出ることも出来たけど、人目を避けなければならない立場。それを流夜くんは謝っていたけど、待ち合わせ、というのもデートっぽくて、話しているときドキドキした。
在義父さんには、ちゃんと言っておこう。流夜くんと出かけてくる。……付き合うことの報告は、その日に帰って来てからしたいと流夜くんが言っていた。
反対されないことは目に見えているけど、嫌がらせをされそうなこともまたわかっていて、それは不安だった。
でも、大丈夫だと言ってくれた。
言葉一つで、私も大丈夫という勇気をもらう。