腕が伸びて、咲桜の両頬を捉えた。

『ありがとう。いいんだよ、それで。俺も同じだから』

『……ほんとう? あたってる? 間違ってない?』

『あたってるよ。俺も、同じことを思った。咲桜を幸せにする場所は、誰にもやりたくないって。それと俺は、咲桜とずっと一緒にいたいって思ってる。これは……どうだろう?』

問うと、咲桜は考えるように間をとった。

『……ある。流夜くんと一緒にいるの、すきだし、ずっと続いたらいいなって、思った』

『なら、いいんだ。俺は咲桜とずっと一緒にいたい。高校を卒業して、愛子の敷いた偽婚約が意味をなくしても』

『うん……一緒にいる。それが、恋人なのかな?』

『たぶん。俺もそういうの詳しくないけど、知らないなりにそれでいいと思う。……今から咲桜は、俺の彼女な?』

『かのじょっ?』

単語だけで、咲桜はびくりとした。それから窺うように見てくる。

『流夜くんは……彼氏?』

……咲桜に問われて、自分をそういう存在に認識してくれたのだと知って嬉しい気持ちになる。

『そうだよ。咲桜の彼氏は、俺』

偽物じゃなくて、な。そう言うと、咲桜は一度大きく目を見開いてから、ゆっくり細めた。

『なんか……すごいうれしー………』

『ああ……』

こんな夢みたいな幸福感が、あるのか。……全部、咲桜がくれた幸せだ。咲桜は俺を幸せにしたいって言ってくれたけど、もう十分過ぎるほど幸せだよ。

とらえたままの頬。額に口づけると、小さく震えた。まだ慣れてはいないようだな。

けれど、もっと慣れてほしくて、そして触れたくて、額や頬や、瞼にキスを落とす。

その度に小さく反応があるので、やっぱり自分は調子に乗ってしまう。

いつの間にか、咲桜の眦が濡れていた。それに気づいて、少し顔を離す。

『……咲桜?』

親指で目元を拭うと、やはり涙だった。な、泣くほど嫌だったか……。こういう反応を見て非道く自己嫌悪に陥るのも、毎度のことだった。それでも咲桜に触れられずにはいられない。

咲桜は慌てて目元を拭って笑った。