『本当……か?』
こくり、咲桜は肯いた。
咲桜の膝の上の拳が震えているのが見える。緊張しているようだ。
『……俺、結構面倒だぞ? 生い立ちとか、色々と……』
そう言うと、咲桜は一回だけ首を横に振った。
『それが流夜くんなら、いいよ』
『………』
なんだよ、その全肯定みたいな言葉。ずるいだろ、お前。
『……普通に、一緒に外を歩くとかも出来ない。俺たちの場合、周りに知っている人は多いけど、松生以外の友達にも言えない。……それでもいいのか?』
そういう犠牲があっても、俺をすきだと言ってくれるのか?
俺は、そういう障害――生徒と教師という関係が終わるまでは、付き合うという行動に移す気はなかった。彼氏が出来ることは、ゆるすつもりはなかったけど。
それでも、咲桜に一番近い位置を譲りたくなくて、一足飛びに告白してしまった。返事は、卒業までにもらえればいい方だと、長い目で見ていくつもりだった。それが今、目の前で咲桜に返事をもらった。しかも、それを受け容れる、俺の存在を是(ぜ)とする返事だった。
『咲桜、殴ってくれ』
『だからなんでっ⁉』
『絶対これ俺に都合のいい夢だから。期待しないうちに現実にかえしてくれ』
『これが現実だよ! 現実で、私は流夜くんがすきなの! 嘘じゃないし夢でも幻でもないし、キスだってしたかったらしていいから! ……期待、してよ』
最後はすねるような声だった。え………………………………………現実、なのか?
すいと、咲桜の右手が俺の頬に触れた。そして手を触れさせた辺りに自分の唇を寄せた。
え……咲桜から、頬にキス、された……っ?
『!』
驚いて肩を震わせる。咲桜はそのまま、顔を近くに置いて言葉する。
『さっき、ね、一つだけ、わかったことがあるの』
『……それを、訊いても?』
咲桜は軽く頭を上下させた。
『流夜くんは、私が幸せにしたい、って思った。……これで、合ってる、かな?』
――――。
『……お前は本当にかっこいいな』