「咲桜! 待てって」
腕を捕まえた勢いで身体も抱き寄せて、抱きしめるかたちになった。
咲桜はパニクっているのか、逃れようと必死だ。
「だ、大丈夫ですから誰にも言いませんからっ」
「なにをだよ。勘違いしてんだろ、お前」
「勘違いなんてしてませんよっ。親友の恋路の邪魔はしませんっ」
「じゃあこっち見ろ」
ぐいっと咲桜の頬を包んで、無理矢理上向かせる。
紅いのか蒼いのかわからない顔色をしていた。目線がうろうろして、俺に見つめられることに耐えられなくなったように口が動く。
「……笑満と、なに話してたんですか?」
「知らん」
咲桜が逃げようとするのが気に入らなくて、ぶっきらぼうな言い方になった。
「………」
「松生がなにか言いかけたところにお前が来たんだ。だから俺も知らない」
「でも……笑満、あんな近づいてて……」
「俺は」
右手を、頬から顎に移す。
「この距離は咲桜にしかゆるしていないつもりだが?」
「………っ」
「わかったなら戻れ。もう俺の前から逃げ出すなよ」
「……はい」
咲桜は、今度は確実に頬を赤らめて肯いた。
「あのさ。いくら誰もいねー旧校舎だからって、そんだけいちゃついてたらすぐバレんぞ、お前ら」