「おい、お前から訊いといてそれかよ」
「だって僕、流夜の恋愛事情なんて興味ないし」
「だったらハナシ振るなよ!」
「えー、そんなに構ってほしいの? はいはい。よかったね。どういう経緯で付き合うことになったの?」
「雑に訊くな!」
憤慨して、無視を決めた。
咲桜と偽婚約だけでなくなった経緯など、わざわざ話したくはない。お互いだけが知っていればいい。……咲桜のことだから松生には話しそうだけど。
咲桜を抱きしめて、短いながら深く眠り込んでいた。軽く背中を叩かれ、ぼんやり瞼を開けた。そこには優しい表情の咲桜がいて、やっぱりこれは夢で、願い過ぎるあまりに見た幻だと思った。幻でも逃げられたくなくて、きつく抱き寄せると抗議の声があった。
『ちょ、流夜くん! 起きてるなら離して!』
『……起きてないから離したくない』
『会話成立させといてふざけんな!』
怒られた。
また眉間に一発喰らいそうな雰囲気になってきたので、いい加減寝惚けた頭を覚醒させるよう努めた。少し腕を緩めたけど、まだ抱きしめたままだ。
『……逃げなかったんだな?』
『逃げる理由ないよ。自分から言ったんだし。……それに、逃げないって約束したし』
『昼間は逃げたくせに』
『う……だってあれ、流夜くんがいきなりキスとかするからじゃんっ。…………ねえ、なんで今まで教えてくれなかったの?』
静かな音で問われて、俺は身体を起こした。うーん……頭も動く、かな。
咲桜の手も取って起き上がらせ、向かい合って座る。
『咲桜も夢うつつとは思わなかった。……完全に忘れているようだったから、嫌がゆえに忘れてるなら、そのまま忘れていた方がいいのかと思った。咲桜の同意なくしたことだったし、たぶん寝起きで咲桜も意識がはっきりしていなかったかもしれないから』
その直前に、過去のトラウマに向き合うことを話していたのだ。
いっぱいいっぱいになって眠ってしまって、忘れていた方がいい現実もある。