「どれだけ……だろう。よく憶えてない」
「は? ……憶えてない、の?」
咲桜には予想外の答えだったようだ。
だが、本当のことだ。
俺たち三人は、桜庭の中等部に入るために、育った山間の集落を出て以来警察に首を突っ込んでいる。
特に俺は、事件以外のことに興味関心がなかったから、彼女なんかはいなかった。
のだが、高校生の頃に起こったもめ事に端を発して、以来面倒事を避けるため、告白されたら受けるようにしていた。
そうして付き合っても、事件やその勉強以外に気を向けないので、『彼氏』らしいことなんて一つもしないしする気もなかった。
相手はそれでもいいと言って了承したのだが、呆れられたり諦められたりして、別れ話を切り出される。それを繰り返していただけだ。
「向こうから付き合ってくれって言われただけだから……」
俺の端的な返事に、咲桜は呆気に取られている。
「自分から告白したのも、彼女に、って望んだのも、咲桜だけだから。だから正直、慣れてないのは俺も同じだ」
こつん、と額同士があたった。こんなにずっと誰かを見ていたいと思うことがあるなんて、知らなかった。
「……だから、嫌なことをしてしまったら躊躇わずにそう言ってもらいたい。俺、結構したいようにしてしまうから」
「……わかった。……でも、言っておくけど……されたことの中で、嫌なことは一つもないから。驚くのとか困るのとかばっかりだけど」
……確かに、そうかもしれない。
咲桜はよくわたわたしている。
ここまで『大事』という感情は、あることすら知らなかった。
……どうすればいいのだろうか。
咲桜に、そう思っていると言いたいのに、伝えられる言葉を、俺は知らない。