「うん。……あ、それでね、少し服を変えたいって思ってる。首が詰まってるのばっかりだったから。今度笑満と行ってくる」

「ふーん」

すっと、宙に留まっていた俺の指が肩に流れる咲桜の髪を絡め取った。咲桜はびっくりしたようだが、恐怖しているようには見えない。むしろ照れている。

「……大丈夫なんだな」

確かめるように髪に触れた指先は、すぐに離した。なんだか色々と危ない気がする。

「あー、この前困らせたよね。ごめんね」

俺の前でパニックを起こしたときのことだ。咲桜に謝られると、こちらの方が申し訳ない気分になる。

「心配はしたけど困ってはない」

「……ありがとう」

咲桜は微苦笑を浮かべた。本当に、どれだけ頑張っているのだろう、この子は。

そしてなんだか、松生に妬けてしまうのだけど。

「俺とは行ってくれないのか?」

「……? なにが?」

咲桜はきょとんとしている。

「咲桜と一緒に出掛けたこと、ないしな」

「え……」

一瞬で、咲桜の頬だけでなく、顔全体が朱に染まった。

「えっ……! い、いいのっ? そ、外で逢っても……」

……ああ、そういう心配を咲桜はしていたのか。

確かに現状、二人きりで逢うのは色々と問題かもしれない。

けれど、そういう『倫理違反』は覚悟の上で、俺は咲桜に手を差し出したのだ。

咲桜がそこをわかっているとは言い切れないけど、そういう思考を導くのは、自分の役割だと思っている。

咲桜が手を、重ねてくれたから。

「少し離れた場所なら問題ないだろう。俺も気づかれないようにするから」

「ほんとっ? そ、それって……」

そこまで言って、咲桜は口ごもった。

「ん?」

「えと……う、嬉しいなあ、て」

照れたように笑った咲桜。何か誤魔化しているように見える。……が、それも可愛い。

「……咲桜、眼鏡取って」