「悪かったって。だってお前に彼女とか奇跡じゃん。だからさ、咲桜と逢いやすいようにしてやるから邪険にするなよ」

「……お前らが話さなければ今のところ心配はないんだが」

「あっ、あたし絶対誰にも言わない。頼にも言わないから、安心してね、咲桜」

「……ありがとう」

「俺も言わねーよ。今神宮に教師辞められたら俺、わざわざここに入った意味なくなるし。雲居と春芽には俺から報告しておくから、心配するならあっちだろ」

「心配する要素を増やしておきながら言うな」

遙音は「あはは」とまた軽く笑った。なんでお前から報告されてんだよ。

松生が少し意外そうな顔をして見上げた。

「遙音くん、先生がいるからここに入ったの?」

「ん? そうだよ。雲居か春芽が教師になっててもそうしたかなー。あいつらが教師になるわけねーんだけど」

どっちだ。

咲桜も意外だったようで、こちらを見てきた。まあそれが、俺が教師やってる理由なんだが。

「さーて。笑満ちゃんの教室行こ?」

「え、あたし?」

ふと遙音がそんなことを言ったので、松生は驚いた声を出した。

「俺も学内で笑満ちゃんに逢いたいし、笑満ちゃんの周り公認の友達になりたいから。あの学年主席とかに挨拶させてよ」

「頼?」

一年首席は、日義頼だ。

「うん。というわけで、俺ら先に行ってるから。咲桜はゆっくりしておいでー」

「えっ、ちょっと遙音くん! あ、咲桜、先に戻ってるね!」

遙音は松生の手を摑んで連れ出してしまった。

松生は慌てつつもどこか慣れた風に咲桜に言葉を残して出て行った。

「……まるっきり嵐だな、あいつら」

「そうですねえ……。でも、よかった」

咲桜の不安は、一つ解消されたようだ。

「咲桜。おいで」

俺が椅子に座ったまま手を向けると、咲桜は自分の手を重ねる。咲桜が見下ろす格好だった。