「で、も。あたしはいいけど、咲桜に意地悪するのはゆるしませんからね」
「そうだなー。咲桜に意地悪するより神宮いじめた方が楽しいからしないことにしとく」
「……遙音くんて結構先生大すきだよね」
「まあね。今はこんなんでも、昔は憧れたヤツだからかなー」
どういう意味だ。そう言おうかと思ったが、二人の会話に割り込むのも気が引けた。
六年の邂逅。松生が、遙音が、お互いを憶えていたからこその再会。お互いに忘れられない存在だったのだろう。
咲桜は静かに松生の傍を離れて、俺の机の近くに立った。
見上げると、微かに微笑んでくれたので、同じように返す。
「なんか咲桜って笑満ちゃんの彼氏みたいだよな」
「でしょう。咲桜はカッコいいんです。……でもね、遙音くん。最近流夜くんのことでかなり乙女になっちゃうんだよ。どう喝入れればいいと思う?」
「そうなの? だったら神宮を攻撃しない?」
「お前ら密談はもっとこっそりしろ。……それから、悪いが松生の彼氏じゃない。咲桜の彼氏は俺なんでな」
堂々と、丸聞こえな音量で話す二人に注意した。そして釘もさしておく。
急な俺の言い方に咲桜は泡喰って止めようとするが、無論、止めはしない。
「え……彼氏?」
「咲桜が神宮の?」
遙音が呼んだ順に指を指した。おい。
「逆だ阿呆。お前らには言っておくけど、偽婚約だけじゃなくなるから」
「えっ……えー! 咲桜! 咲桜、本当? 現実?」
松生が素っ頓狂な声をあげると、咲桜は紅くなった顔で俺を睨んできた。