握られた手が、小刻みに震えている。

……逃げ出すことにも勇気はいったはずだ。それでも、今は真正面から向き合っている。

「ありがとう……憶えていてくれて。また、友達になりたい。……笑満ちゃんが傷つかなかったら」

「それはあたしが心配するところだよっ。……あたしや、あたしの家族が近くにいて、大丈夫?」

……松生の家族も、遙音になにも出来なかった側なのだ。そして、事件や家族のことは、幼かった松生よりたくさん知っていただろう。

遙音の表情がやわらぐ。

「笑満ちゃんがもう俺から逃げないでいてくれたら、大丈夫かな」

その返事に、一瞬咲桜と俺は息が詰まった。まさか聞かれていた……? 

そんな不安が過って遙音を見遣るが、松生を見てしかいなかった。どうやら遙音オリジナルの言葉みたいだ。

……何故俺と似ている。

「そのくらいでいいの? わかった。絶対逃げない」

「何度も逃げた子が宣言しちゃっていいの?」

「う……遙音くんて昔から少し意地悪だよね」

「少しじゃなくて結構意地悪いよ。そんな奴でもよかったら、友達になってください」

「むしろは底意地悪―ぞ」

「流夜くんは黙ってて」

咲桜に怒られた。

遙音が見せた笑顔は、今まで俺たちが見たことがないものだった。

足かけ六年見守ってきたが、遙音のこんな安心した顔は初めて見た。

松生はそんな遙音の笑い方も知っているのか、苦笑した。

「勿論です。こーんな意地悪い人、遙音くん以外だったら友達にならないけど」

「はは、それは光栄」