「今日すきだって言ったばかりだろ。そんでちゃんと付き合ってるわけじゃねーんだから、そういう相手に抱き付いていいよ、はない。馬鹿でも言わない」
とん、と人差し指でおでこを突かれた。
「……申し訳ないです……」
確かにさっきのは軽率だったと反省している。流夜くんの気持ちとして、たぶん自分も同じようにすきだと言っていたら、ここまで困らせなかっただろう。素直に抱き付いてくれていたかもしれない。
……でも、なんでかな。
「なんか、流夜くんなら言っても大丈夫かなーて」
ただ、そう思っている。
一番安心出来る場所が、私の中では『流夜くん』になってしまっているからかな。場所が人、ってどういうことなんだろう。上手く説明出来ないんだけど、そんな感じなんだ。
「だからお前……」
流夜くんは驚いたように声に詰まらせた。私は続ける。
「流夜くんのこと、私は大分すきだから」
「………アホ」
毒づくように言って、流夜くんの腕がそっと回って来た。え、えと……これは突き飛ばす方? このままで大丈夫な方? 戸惑っていると、頭の後ろから流夜くんの声がした。
「そこまで安心されてると、自分がストッパーじゃないといけないじゃないか」
「……だから言ってるんだよ」
彷徨っていた手を、流夜くんの背中に廻して私からも抱きついた。
……大分、と言うか、かなり、流夜くんのことがすきだと思う。だから、もし流夜くんのしたいことがあったら受け止めたいとも思う。よこしまでもなんでもいいから、流夜の一番近い場所は譲りたくない、って。けれど、流夜くんが言うようなことを――心配するようなことを、しないともわかってもいる気がする。
流夜くんは言葉にすることでストッパーをかけている。私から口にすることで、歯止めになる。……流夜くんは、眼差し一つですら、私を大事だと伝えてくれるから……。
だ、だから泣きそうになるからそういうことを考えるな!



