「なに? 不眠、悪化してるの?」

「悪化って言うか……なんか落ち着かなくて眠れない。いつからだったかな……」

最近急に、そんな症状が出てくるのだ。あるはずのものがないような感じ。手さぐりになにかを求めてしまう衝動。

吹雪や降渡の心配する、以前にはなかった状態だ。

なにかを抱きしめて眠れたらいいのに。……あれ?

「……咲桜がここにいたとき……?」

思い返してみると、頃合いが合致する。

以前、ここに来た咲桜が大雨で帰れなくなって、ぐだぐだしたやり取りをしたあと、咲桜が腕にしがみついて寝てしまい、解けなくて一緒に寝たことがあった。

あの折は自分でも驚くほど熟睡していた。そしてその辺りから、不眠の症状が悪化した。

「え、なになに? 咲桜ちゃん泊まったの?」

「いや降渡。流夜にそんな甲斐性ないでしょ」

食いついて来た。悪かったな、甲斐性なしで。それからわざわざお前たちにエサを与える気はない。

「さあな」

嘯いて、しかし確信めいたものが芽生えていた。

咲桜がいないから眠れていない。それはたぶん当たりだ。

……なんだ、それ。咲桜は生徒で、偽物の婚約者で、いずれは恋人を見つける身。そんな、咲桜を自分のものみたいに言っていいわけがない。

たとえ近い距離を、今は咲桜がゆるしてくれていても。

咲桜を恋人に出来たらいいのに。

……そんな言葉が頭の隅に浮かんで、目を閉じることで消した。

あの子に、自分の抱える黒々まで背負わせては、いけない。