「じんぐー……」
「……なにやってんだお前」
咲桜を教室に送り出し資料室に戻ると、遙音が悲壮な顔で壁際に体育座りしていた。
「お前は仲良さそうでいいな……」
「だからなんだよ」
遙音だったら咲桜とのことはばれても構わないのだけど、なんでそんな恨めしそうな顔で見られなくちゃならない。……まさか――
「さっき、笑満ちゃんに逃げられた……」
「………」
遙音まで咲桜に、という心配はなさそうだ。と言うか、笑満ちゃん? 昨日もそう呼んでいたように思うけど……。
「松生?」
椅子につくと、遙音は小さくなったままこくりと首を上下させた。
「ここに来たら笑満ちゃんいたから声かけたら……すごい勢いで逃げられた……俺嫌われてたかな……いや……あんな事件あった奴なんて嫌だよな……」
ぽつぽつ話すが、今まで見たことないくらい落ち込んでいる。遙音は基本的にテンションが高いのだ。
咲桜から、松生が遙音のことを憶えていたことは聞いている。今もすきなことも。だが、遙音から松生の話を聞いたことはなかった。
「……松生と知り合いなのか?」
知らぬふりで訊いてみる。遙音の過去を思えば、下手に地雷は踏みたくない。
遙音は更に俯いた。
「……最後まで俺に優しかった、唯一の子だから……。頼むから今は凹まして………」
――憶えていたよりも、深いところで知っていたようだ。
最後まで、か……。