「あーらら。偽婚約の意味なくなっちゃったねー。アレだろ? 在義さんと咲桜ちゃんを政略結婚とかから護るためだったんだろ? お前が盾になれねーでどうすんだよ」
降渡から野次が飛んで、血の気が引いて行くのがわかった。
咲桜の父、異端の刑事にして県警本部長の華取在義。
なんの後ろ盾も派閥もなく権力を持った在義さんに取り入るために手っ取り早いのは、一人娘の咲桜と結婚すること。
俺はその危険から二人を護るために、かつての在義さんの後輩で相棒だった春芽愛子に選ばれたんだ。
俺自身が身内を亡くした理由が理由なために、警察事案に首を突っ込んでいた。
けれど警察官にはならずに理由あって教師をしていた。
咲桜の相手に、警察内部ではない、けれど関係者、という立場は、愛子にとってはちょうどよかったらしい。
お互いこれ以上見合いなどをふっかけられるのはごめんだと、咲桜と利害一致の偽婚約を結んだが、咲桜と接するうちによくない方へ来ていることは自覚があった。
最初っからひっかかってはいた。
咲桜の存在は生徒に収まりきらないし、在義さんの娘だから護る、だけでは器が小さすぎる。
……そのうち、咲桜にはキスしてしまうし。
咲桜が夢うつつで憶えていなかったから明言はしていないけど、どうにも触れたくてしょうがなくなるときがある。
けれど、自分はあくまで偽物婚約者。立場的に咲桜を護るためだけの存在。
駄目だ……足りない。咲桜の傍にいていい理由がない。
「……考え込んじゃったよ、あいつ」
「愉快だねえ」
楽しそうな幼馴染たちに目を遣ると、二人揃って吹き出している。
「はははっ、りゅうが情けねー」
「くくっ、ちょっと、どこにそんな面白要素隠してたのさ。愛しちゃうね、まったく」
……自分は今どんな顔をしているのだろう……。本当イラつかせるの得意だよなあ、こいつら。
「最近寝れねーんだよ。前にも増して」
イラつきが声にも表れると、吹雪が軽く瞳を瞠った。