「………っ、!」
「咲桜に触るなら恋人じゃないといけないんだろ? なら一足飛びでも告白するし、言うよ、すきだって」
「ちょ――っと待った!」
「なんだ。あまり騒ぐと口塞ぐぞ」
「大丈夫人来ないから! だって……なんで?」
「なにがだ?」
「なんで――わたし? 私はただの偽モノじゃないですか――」
咲桜とは、偽物婚約者。
だからこそ傍にいていい関係。
「……本物になりたいと思ったんだ。それでは駄目か?」
「……………だめじゃないです………」
咲桜は小さく続ける。
「けど……わたし、わからないですよ。……すきとか、そういうの……」
きっと咲桜は、恋愛に疎いことがゆるされてきた。
在義さんにもらった恩を返すために生きている。それだけだった子だ。でも、もう俺はすきなんだ。
「いいよ。わからない間にすきにさせるから」
「……なんでそんなに自信あるの」
「咲桜はもう大分、俺のことすきだと思うから」
何を自意識過剰なことを。自分でも笑えてしまうことを言っている。でも、咲桜は腕の中に置くことをゆるしてくれている。
「一応、今の偽者は続けるから。答えがわかったらいつでも言ってくれ」
「……いいの?」
「いいよ。彼氏出来そうになったら邪魔するけど」
「またそんな……」
咲桜はくしゃりを、困ったように笑った。
今はそんな返事だけでも、十分だ。